ホームズ物語が時系列順でないわけ

これまでホームズの読書会を開いて、初めてホームズ物語を読むような人によく聞かれたのが、「これはホームズが何歳ぐらいの事件なのか」という質問でした。その問いは、各事件がいつ起きたか、ホームズはいつ生まれたか、と言い換えることもできます。

60 作品のホームズ作品を読んでいると分かってきますが、時系列はバラバラです。そして、「最後の事件」→「空屋の冒険」という例外を除き、続き物でもないので、各物語は独立しています。

そもそも発生年が明確な事件のほうが例外で、ほとんどがいつ起きたことなのかが分かりません。そのため事件発生年を物語のディテールから推測したり、ホームズやワトスンの生まれた年を推測したりする「年代学」と呼ばれる研究ジャンルがあります(ホームズ・ファンはこういう大げさなネーミングをつけたがります)。

その年代学に基づいた年表および対応する事件発生年とホームズの年齢を一覧表にして読書会で配ったりもしました。

一方において、こういう「時系列をハッキリさせたい」「ホームズが何歳の時の事件なのか知りたい」と思うのは、時系列思考に慣れきっている非常に現代的な考え方なのかもしれません。

アーサー・コナン・ドイルが意図的なのか偶然なのか、事件を時系列で書いておらず、年代も不明確なおかげで、基本的にどの順番でも読めてしまいます。読書会に途中から初参加された方も比較的すんなり話についていけていたのも、ホームズ物語はどこからでも読めるようになっているからだと思います。

もちろん、ぼんやりとした時代の変化は作品中に感じられますし、過去作への言及もあったりしますが、その言及自体が矛盾していたりするところがいい加減というか愛嬌があるというのか・・・。さらにそれがホームズ研究家の研究対象になっていくのです。

時系列がバラバラということは、「老いに向かって下り坂を下り、収束していくような構造」ではありません。最後も尻切れトンボ的に終了します。ホームズ物語は、グルグル回っていて、いつまでも続く<永遠>なのです。

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