河出書房新社の単行本でホームズ物語を読了

私が河出書房新社のシャーロック・ホームズ全集の存在を知ったのは、読書会がきっかけです。2017 年から 2018 年に掛けて開催したシャーロック・ホームズ読書会で参加者の一人が、河出書房新社の単行本を読書会に持ってきていたからです。

河出書房新社の全集はオックスフォード大学による詳注付きのホームズ全集を翻訳したもので、本の半分は注が占めています。同じく本の半分を注が占めているちくま文庫版のホームズ全集も持っていましたが、読書会主催者としてしっかり勉強して臨みたかったので、これは当然河出書房新社版も全集を集めて読みたいと思い、すぐに買い揃えました。買わずにはいられなかったのは、元来の収集癖とも関係しているかもしれません。

単行本はすでに発売から 20 年近く経っており一部の本は入手が難しくなっていました。私は「本は新品で読みたい派」なので、ますます入手のハードルが高かったです。大半はなんとかネットや市内の書店で買えたものの、『シャーロック・ホームズの冒険』に関してはネットでは見つけられず、honto のサイトで実店舗の在庫を調べ、隣りの県まで買いに行ったほどです。

シャーロック・ホームズ全集 3 シャーロック・ホームズの冒険 – 店舗お取扱い状況 – honto本の通販ストア
https://honto.jp/netstore/pd-store_0601553932.html

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全集を並べた写真。

現在は注を簡略化した文庫版および Kindle 版も出ていますが、完全版は単行本だけなので、集めたい方は急いで買ったほうがよさそうです。なお、文庫化・Kindle 化される過程では誤植は直っていないようで、単純に注が削られただけのようです。

読書会に合わせて全集を読み進めていくはずでしたが、何しろ1冊1冊のボリュームが多く、本のサイズ的にも気軽に持ち運びができないこともあり、各回読書会までに読み終えれないことが多々ありました。読書会はとっくに終わっていますが、その後ものんびり読んできて、昨日やっと全巻を読み終えました! 結局1年数カ月掛かりました。

河出書房新社版のいいところは、注が変にマニアックじゃないところです。さすがオクスフォード大学が学問的に編集しただけあって、ドイル研究や文献学的な視点の注です。ちくま文庫の詳注版ホームズはベアリング-グルードによる “やや誇大妄想も含んだ” 注なので、ホームズを初めて読む人には絶対に勧められない本ですが(そもそも作品の掲載順が事件発生順なのも混乱します)、河出書房新社版は作品の誕生背景が分かって勉強になります。特にコナン・ドイルが創作した固有名詞や地名に関しては、元になったであろう当時の有名人やコナン・ドイル自身が関係した地名がいちいち挙げられており、日本の普通の人には決して調べることができない分析です。半笑いで楽しめるベアリング-グルードの注と違って退屈な部分もありますが、貴重な文献だと思います。

『シャーロック・ホームズの帰還』に入っている「孤独な自転車乗り」に関しては、「孤独な自転車乗り」(”Solitary Cyclist”)がヴァイオレット・スミス嬢を指すのかカラザースを指すのかという議論がホームジアンの間でありますが、注を読んでコナン・ドイルがもともとはカラザースのことを指していたという意図を初めて知りました。スミス嬢を指して「美しき自転車乗り」と訳すのは本来の意味では間違いですね。

また挿絵も、他の本で見たことがない挿絵もあって楽しめました。

ただ本文と注が別々の方が翻訳し、表記のすり合わせもしていないようなので、少し混乱することもありました。例えば、『シャーロック・ホームズの帰還』の p157は「ノーリッジ」と書かれている地名が p555 では「ノーウィッチ」となっていたりします(ちなみに英語だと「ノーリッジ」の発音に近いです)。 「孤独な自転車乗り」(p87)も注では「美しき自転車乗り」(p558)となっています。

ためになる全集とはいえ、やはり真面目に研究したい人向けの本なので初めて読む人には勧められません。そもそも注で結構ネタバレしています! 注を読みながら本文を読んでいると、最初のほうで犯人をバラしているので要注意です。

私は中学生時代に初めて読んだのが新潮文庫でした。2017 〜 2018 年の読書会を通じて東京創元社版、ちくま文庫版、そして今回の河出書房新社版を読めました。原書は時折オーディオブックで聴いています。次は角川文庫版を読みたいと考えていますが、まだ全巻が発売されていないのですべて発売されてから全集を揃えようかなと思います。

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