[読書メモ]『シャーロック・ホームズの事件簿』

【1】創元推理文庫

p64
ある程度のところで、依頼人にこちらの有能さを印象づけておくのが賢明であるのは心得ているから、やおら2、3の結論をご披露することにした。

p104
空腹のときのほうが、頭が冴えるからさ。きみも医者ならよく心得てるだろうけどね、ワトスン、血液の働きが消化作用に費やされれば、そのぶん、頭のほうは血のめぐりが悪くなる。ぼくは頭脳人間だからね、ワトスン。ほかはただのつけたしだよ。だから、まずは頭__頭を第一に考えてやらなきゃならないのさ[。]

p133
客というよりも、怒り狂った猛牛が闖入(ちんにゅう)してきた、そう言ったら、このときの印象をより明確に伝えられるかもしれない。

p212
おそろしく多岐にわたる事柄を研究している学徒らしい。

p219
職業柄、ありとあらゆる雑学の知識が、のちのち役に立つんです。このお部屋は、まさにその宝庫のようなものですよ[。]

p237
ああ、それを話すのを忘れていた。どうやらワトスン、話の前後をとりちがえるという、きみのややこしい癖が伝染したらしい。

p241
ほう、穏やかではないお言葉ですね[。]

p247
ぼくにそういう捨て台詞を吐いていったひとだって、これまでに何人もいましたがね。見てのとおり、まだぴんぴんしています[。]

p244
むしろぼくは、名前が出ないほうが動きやすい。それに、ぼくが興味をそそられるのは、あくまでも事件そのものでしてね。

p252
生まれてこのかた、欲するものがあれば、いつの場合もそれをつかみとろうとしてきた人間だ[。]

p285
飼い犬はその家の生活をそのまま反映する。

p304
いや、気にしないでください。ぜんぜんかまいませんよ。探偵稼業をやっていれば、こんなことは日常茶飯事ですから[。]

p373
これまでいつもお仕事ぶりを見まもってきましたから、あなたのお人柄や、物事の進めかた、それはよく存じあげているつもりです。いまのわたしには、読書だけが残された楽しみですので、こう見えても、世間の事情には通じておりますのよ。

p363
傷病軍人年金を半分がた、馬券につぎこんでるくらいだから[。]

p398
じつはね、ワトスンもこのぼくも、釣り師としてはいくらか知られたほうなんです__そうだよね、ワトスン?

p398
近隣一帯の淡水魚を根絶やしにしようというわれわれの計画に、すっかり乗り気になった[。]

p428
こういうときには、そっとしておくのに限る。

p442
犯罪捜査で成果を挙げようと思ったら、いつの場合も他人の立場に立って、自分ならどうするかを考えてみることさ。多少の想像力は必要とするが、それでも、報いられるのは確かだ。

p449
この種のいわば瑕瑾(かきん)は、細かく重箱の隅をつつくように読んでこそ目につくもの、楽しんで物語の世界にひたっているかぎり、決して障りにはなりません。

p472
ホームズ譚は素晴らしく面白い。しかし本格推理小説として読むといかにも頼りない。本格であってもなくてもどうでもいいことではあるけれど、本格だと思って読まない方がいい。何故なら、ホームズの推理は論理的でなく、蓋然性を弄(もてあそ)ぶという次元に留まっている。

p474
いずれも「変な募集」の裏に巧みに犯罪が隠されていて

p475
百年前の作品ですからトリック分野もまだ未開拓の部分が広大だったはずで、現在の推理作家よりは有利だったでしょうが、それにしても独創的なアイデアを創造しています。

p476
『回想のシャーロック・ホームズ』(旧版)の解説で中村河太朗氏は、「ドイルはいろいろなトリックを編み出しているが、これまでの 20 数編の中でも、類似の構想にたよるものがないとは言えなかった。かれがいったん筆を措(お)こうと決意したのも、毎月新しい形式を生み出すことの困難さが、隠れた原因の一つのように思われる」と指摘しています。

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【2】河出書房新社の単行本

p21
ホームズさんは、いつだって、肝心なことはご存知ですよ[。]

p25
脳以外のぼくの体の部分は、つまらない付け足しさ。

p54
彼が陽気な気分のときには必ずそうであるように、いくぶん無気味さをたたえた陽気であった。

p59
いやだね、ワトスン、いやな話だ!

p66
訪問者は騒音をたてながら出て行った

p75
アメリカ人というのは、わたしたちのような人種とは違って、何かといえば銃をもち出す連中です。

p105
ワトスン先生はまさしく慎重そのものといっていい人物です。この事件は助手を必要とする案件だと言うこともあらかじめ申し上げておきましょう[。]

p117
もしかして、あなたがお考えなのは、精神異常と月の周期との関係ではありませんか[。]

p131
いつでも、相手の手をしっかり見なくてはいけないよ、ワトスン。それからそで口、ズボンの膝と靴。

p176
こうした小さな脱線が、結局は事件に何らかの関係があったということがときにあるのです。

p207
大陸でおこった犯罪事件の詳細について把握しておくのは、わたしの仕事です。

p214
ぼくはね、ワトスン、自分の相手とは直接に対決するのが好きなのだよ。目と目を見合って、彼がどういう人間か、自分自身で判断したいのだ。

p284
これは思い出せる限りの私たちの長い付き合いのなかでたった一度の彼の身勝手な行動であった。私はひとり寂しく過ごしていた。

p314
口に出さずに紙に書きつけてお知らせしたことで、私が信頼できる思慮深い人間だとおわかりいただけると思いました[。]

p338
「あなたはとにかく徹底的におやりになりますね、ホームズさん」
「このようにしてきたからこそ、今日の私があるというものです。」

p434
“facsimile” とは、精確な複製の意である。

p440
“quid” とは、ポンドの意。単数も複数も同一型である。

p478
シンプスン[…]高級レストランで、当時は男性のみが入店可能であった[。]

p489
クロロフォルム(CHCl3)は、特有の匂いを発する無色の液体である。この薬品が開発されたのはエディンバラ大学医学部で、1847 年以降お産の際の痛みを和らげるのがその目的だった。

p499
イングランド南部の沿岸部には、木の生えていない白亜の岸壁が延々と延びている。

p534
《ショスコム荘》以前の物語で、ベイカー街に顕微鏡が登場するものはない。

p534
傷痍(しょうい)年金のほぼ半分はつぎこんでいるからね
「最近、ぼくは競馬に大いに凝っていてね」くらいの意。[…]こうした用法は、当時一般的だった誇張法の典型である。

p547
現実の世界にあって善良であることは、素晴らしくまた美しいことであるが、小説の世界にあたってはどちらかと言えば退屈で、真実味に欠けるものである。

p555
ヴァイオリンを使った策略が成功したのは、ひとえにホームズが並外れて幸運であったのと、悪党連中の子供じみた愚劣さによるものである。

p559
物語の語り口のなかで《三人ガリデブ》は傑作である。物語のプロットには、ドイルお気に入りの「囮(おとり)」の主題が繰り返されている。

p566
《まだらの紐》が非常に面白く、また読書の心をぐっと掴んで離さないのは、自然に存在する事象の裏に人間の邪悪さが潜んでいるからである。

p577
我々の前書きは、物語の紹介ではない。それはワトスン博士の役割であり、彼以上にこの役割をこなせる人物はいないのだから。

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