ホームズが食べたサンドイッチ

高校生のころ、学校が終わって塾へ移動する途中で小腹がすくのでサンドイッチを食べたりしていました。

といっても、食パンにチーズを挟んだだけのシンプルなものでした。

そんなものではティーンネイジャーのお腹は太りません。でも当時からバリバリのホームジアンだった僕は、「100 年前のホームズだったらこういうシンプルなサンドイッチをポケットに入れて調査に行ったはず」と思い込み、味気ないサンドイッチを、通りすがりの女子大生に「食パン食べてる!」と笑われても痩せ我慢して食べていたのです。

改めてホームズ物語の原書を “sandwich” で全文検索してみたところ、5箇所がヒットしました。翻訳はすべて創元推理文庫です。

(1)「ボヘミアの醜聞」

“In this case I found her biography sandwiched in between that of a Hebrew rabbi and that of a staff-commander who had written a monograph upon the deep-sea fishes.”

目下のこの件でも、あるユダヤ教の律法学者(ラビ)と、新刊魚についての論文を書いたという海軍の参謀将校とのあいだにはさまって、問題の女性の名と経歴とを見いだすことができた。(『冒険』p21)

(2)「赤毛組合」

“A sandwich and a cup of coffee, and then off to violin-land, where all is sweetness and delicacy and harmony, and there are no red-headed clients to vex us with their conundrums.”

サンドイッチとコーヒー、そのあとはいよいよバイオリンの国へ。そこは甘美さと繊細さと、そして調和とが支配する国__赤毛の依頼人が難題を持ちこんできて、われわれを悩ますこともない[。](『冒険』p81)

(3)「緑柱石の宝冠」

“He cut a slice of beef from the joint upon the sideboard, sandwiched it between two rounds of bread, and thrusting this rude meal into his pocket he started off upon his expedition.”

サンドボードの上の大きなかたまりから、ビーフを一切れ切りとると、食パン二枚のあいだにはさんでサンドイッチにし、この粗末な食事をポケットにねじこんで、彼は探索行に出ていった。(『冒険』p453)

(4)「海軍条約事件」

“After leaving you at the station I went for a charming walk through some admirable Surrey scenery to a pretty little village called Ripley, where I had my tea at an inn, and took the precaution of filling my flask and of putting a paper of sandwiches in my pocket.”

駅でお別れしてから、ぼくはサリー州の美しい景観のなか、しばし心地よい散策を楽しんだすえに、リプリーというきれいなこぢんまりした村にたどりつきました。旅籠(はたご)を見つけて、お茶を飲んだあと、水筒に水を詰め、サンドイッチを一包みポケットに入れて、出発の用意をととのえます。(『回想』p396)

(5)「第二の血痕」

“He ran out and ran in, smoked incessantly, played snatches on his violin, sank into reveries, devoured sandwiches at irregular hours, and hardly answered the casual questions which I put to him.”

とにかく、やたらに出たりはいったりし、煙草をひっきりなしに吸い、バイオリンで曲の断片を弾き散らし、深い瞑想に沈み、時ならぬときにサンドイッチをほおばり、こちらのなにげない質問にも、ろくに返事をしない。(『復活』p514)

1だけは「挟む」という意味の動詞で sandwich が使われています。

高校生の僕は3や4を読んでシンプルなサンドイッチを想像したんだと思います。そもそもポケットに入れている時点で、具だくさんではなさそうです(具がたくさんあるとバラバラになるので)。

あるいは昔読んだリンボウ先生の本に出てきた「キューカンバー・サンドウィッチ」のようなシンプルなものをイメージしていたのかもしれません。

キューカンバー・サンドウィッチはリンボウ先生のどの本に書かれていたかは忘れましたが、『イギリスはおいしい』の p91 に軽く触れられていました。この項でサンドイッチのパンをいかに薄く切るかということについて書かています。

前述のホームズ物語の3では a paper of sandwiches という表現があります。a paper of sandwiches は何でしょうか。以下の海外の語学系の掲示板では、サンドイッチを包む紙のことだということになっていました。創元推理文庫の訳の「サンドイッチを一包み」というのも、そういう意味だと思います。

meaning – What does “a paper of sandwiches” mean? – English Language & Usage Stack Exchange
https://english.stackexchange.com/questions/591171/what-does-a-paper-of-sandwiches-mean

でも先程のリンボウ先生の本を読むと、ひょっとして「紙のように薄いペラペラのサンドイッチ」という意味かもしれません。

参考に他の翻訳も調べてみました。

・新潮文庫『思い出』p309:サンドイッチ
・ちくま文庫全集6 p337:サンドイッチを一包み
・河出書房新社(単行本)『思い出』p397:サンドイッチを一包み

新潮文庫は曖昧ですが、それ以外だと「サンドイッチを包む紙」説のほうが有力のようです。

参考:
Prof.Rymbow’s Photo Diary: 加賀太きゅうり
http://rymbow08.blogspot.com/2020/05/blog-post.html

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