[読書会論]「バスカヴィル家の犬」読書会に参加してきました

1月に「バスカヴィル家の犬」の読書会が開催されることを Twitter で知りました。しかも岐阜で開催ということで、これなら名古屋に住む私も行けます。ということで、告知された後にすぐ申し込みをしました。

案の定すぐに満席。こういうのは、様子見をせずすぐに申し込むといいです。過去に多くの参加者がいた実績がある読書会なのですぐ満席となったようですが、たとえ不人気そうなイベントであっても一番に申し込むようにしましょう。読書会を主催したことのある私としては、様子見でなかなか申し込む人がいないのは、心理的にはダメージが大きく、運営上の準備においても進めにくいのです。

第6回岐阜読書会開催! | 翻訳ミステリー大賞シンジケート
honyakumystery.jp/13450

私は以前は名古屋で猫町倶楽部の読書会に通っていました。

猫町倶楽部 -猫町倶楽部の読書会-
www.nekomachi-club.com/

猫町倶楽部では参加者としてだけでなく、運営係にもなったりもしていました。でも現在はまったく行かなくなりました。読書会を出会いの場にしている人がほとんどなので、私のように「勉強するぞ」と思って行くとガッカリすることになるからです。出会い目的の人からはたいした話は聞けません。よく「読書会は人の意見を聞けるからいい」「発見がある」なんて言いますが、本当にそうでしょうか。私は読書会には課題本を何度も読んだり、さらに関連作品も読んで臨みます。でも読書会には課題本を1回読むだけで精いっぱいの人ばかり。私の場合、読書会で人の話を聞くぐらいなら、一人でどんどん本を読んだ方が勉強になるのです。

出会い目的であることを批判しているわけではありません。大いに結構。ただし、私は違うというだけの話です。だから2年前に読書会へ参加したのを最後に、読書会へ行くのはやめました。

しかし今回参加することにしたのです。一つは、単に「もう読書会なんか行かないぞ」という気持ちが弱まってきた(忘れてきた?)から。

そしてやはりホームズ物語が課題本だからです。私は2年ほど前にホームズ物語の全集読書会を開きましたが、それは自分の読書会。他人が開くホームズの読書会には行ったことがありません。私は日本シャーロック・ホームズ・クラブに入会しているわけでもないので、これまでの人生で「本物シャーロッキアン」には数人しか会ったことがありません。ひょっとしてシャーロッキアンに出会えるかもしれない。ホームズを通じたコネクションができるかもしれない。ゲストに著名なシャーロッキアンである日暮雅通さんがいらっしゃるのも目当てでした。

ただ懇親会は好きではないので、読書会後の懇親会には申し込みませんでした。

久しぶりの読書会ということで例によってしっかり準備をしました。課題本は日暮雅通さんが翻訳された光文社版でしたが、それ以外にも角川文庫、河出書房新社の単行本、ちくま文庫の計4出版社分を読みました。原書は声優が David Timson と Stephen Fry の2パターンのオーディオブックを聴きました。

さらに、ピエール・バイヤール(『読んでいない本について堂々と語る方法 』の著書で有名ですね)による “Sherlock Holmes Was Wrong” をオーディオブックで6回聴きました。”Sherlock Holmes Was Wrong” は「バスカヴィル家の犬」の批判本です。日本語の翻訳は絶版になっているので、原書のオーディオブックを聴きました。

映像作品も少し観ました。読書会前日に LEGO 版とグラナダ版を、読書会当日の朝一にラスボーン版を観ました。レビューはラスボーン版を観た後にすぐ書いています(興奮が冷めぬうちに書きました)。

LEGO 版、グラナダ版、ラスボーン版の「バスカヴィル家の犬」を鑑賞 – Sherlock Holmes Topia
sh-topia.com/2020/02/22/lego-granada-rathbone-the-hound-of-the-baskervilles/

同時にこの読書会を機に、「ホームズ関係でやろうと思っていたことを片付けよう」と思い付きました。そういえば、私が主催した読書会について書いた著書『シャーロック・ホームズで読書会を開こう』の改訂版を前から出そうと思っていたので作業を始めました。

ただ、改訂版の作成に思いのほか時間がかかり、なかなか終わりません。途中で切り上げても良かったのですが、このまま勢いにまかせて終わらせたかったのでずっと続けてしまいました。これに関してはまた後日詳細を書く予定です。

本当は「バスカヴィル家の犬」を、創元推理文庫、新潮文庫、”The New Annotated Sherlock Holmes” でも読んでおきたかったし、映像作品もさらにいくつか観ておきたかったんですが時間切れ。そういう状態で読書会当日を迎えました。

なお、いつも読書会に参加するときにやっているように、自分の感想はマインドマップにまとめていました。Mac の MindManager というアプリで作成しましたが、メモが多すぎて字がずいぶん小さくなってしまいました。

それと読書会の準備をしている際に、ヒゲが伸びてきました。待てよ__ヒゲを伸ばして読書会に行けば、プチ・コスプレだ!__と気付きました。「バスカヴィル家の犬」にはロンドンの謎の追跡者、バリモア、セルデンと、3人のヒゲ男が出てきます。普段人前ではヒゲを剃っていますが、今回はヒゲを伸ばして読書会に参加することにしました。Pinterest の海外のイケメン・ヒゲ男子の画像を参考にしましたが、読書会の朝にヒゲを整えるのに苦労しました。

それなりに準備は頑張ったし、プチ・コスプレはするし、ウキウキで読書会に参加です。しかしこれから書くように、思っていた読書会とはちょっと違いました。

***

読書会会場は「岐阜県岐阜市生涯学習センター研修室 30」。岐阜駅に直結したハートフルスクエア G という施設の中にあります。私は岐阜に行くのは人生3回目です。

以下、読書会主催経験者としてやや批判的に感想を書いていきます。

まず会場に入っても受付がよく分からずウロウロ。受付は入口から少し離れたところなので分かりにくかったです。受付テーブルも入口の方を向いていません。受付担当者が一人なので、受付対応中は入室してきた別の人を誘導できない状態でした。受付の位置を入口に近づけるか、受付担当を2人にするか、入口に誘導者を一人立たせておくかすべきです。

参加費は 500 円。この規模の読書会で大変だろうし、時間としても3時間弱で長め。ゲストも呼んでいます。私は 1500 円ぐらいの値段設定でもいいんじゃないかなと思います。私は喜んで払います。

読書会は2グループに分かれていました。定員 20 名の読書会でしたが、私のグループは 12 人はいました。

最初に一人ずつ自己紹介をしたあと、本の内容について話し合う、というスタイルでした。

しかしこれはいけません。私自身読書会を運営して分かったのは、1グループ 12 人なんて多すぎるということです。せいぜいマックス8人。それ以上だと話ができない人が出てしまいます。

たとえ8人以下でも、とりあえず全員が言いたいことを言えるように、私の読書会では最初に一人ずつ順番にしっかり感想を述べてもらっていました。そのあとでやっと全体討論です。今回の読書会は最初から全体討論だったので話をする人が偏ってしまいます。声が大きい人が中心になってしまう。12 人もいるとますますそうです。

どうしても 12 人でやるなら、進行係の人が、発言が少ない人に話を振るべきです。今回はそういうこともありませんでした。これは進行係個人を責めているわけではなく、読書会運営側がルールを作っておき、進行係に指示しておくべきです。

私は初めての読書会で緊張していたこともあり、うまく波の乗れずに結局全然話せませんでした。まあ、人の話を聞きながらいろいろ考えたりできたので良かったのですが。

それと全体討論というのは討論の流れ以外の話がしにくいという問題があります。課題作品について言いたいことがある、けれど今の討論の流れ上その話はできない__というような状況です。つまり話の内容が制限され、自分は特に話すことがないトピックだとますます声を上げにくくなるわけです。だからこそ最初に一人ひとり順番に感想を言えるようにするべきだと思うのです。

幸い(?)私が発言したいトピックにはほとんどならなかったので、「話したくてウズウズする」ということにはなりませんでした。だから特に発言しなかったのかもしれません。それとあえて「まんべんなく誰もが発言できるようにすべし」とは逆のことを書きますが、話すことがなければべつに話さなくていいと思うのです。<話すこと>は手段であり目的ではありません。話すことがないのに話さなくちゃいけない、なんてことはありません。その意味でも、繰り返しますが、最初に一人ひとりが自分の話したいことを順番に言う時間を作ってほしいです。

グループの人数が多いことによるもう一つの弊害は、端の人の声が聞こえにくいことです。今回もちゃんと聞こえないことがよくありました。日暮さんのマイルド・ボイスも聞くのに苦労しました。やはり、今回の場合は4グループぐらいに分けるべきだったのではないでしょうか。

なお、自己紹介の際に「謎のヒゲ男風に、ヒゲを伸ばしてきました!」と言ったらウケてもらえたようなので、体を張った甲斐がありました。

配布資料として、参加者のプロフィールを載せた名簿が配布されていました。これは悪くないシステムだと思いました。各自自己アピールをできる場が用意されていますし、Twitter アカウントも併記されているのでフォローしやすいです(このプロフィール欄に書いてほしい内容は事前に運営係にメールで伝えることになっていました)。一般の読書会だと読書会中に話を聞いて一生懸命名前やらをメモしたり、あるいは話しかけて聞き出したり、ハードルが高いんですよ。

以前読書会に参加して学んだことは、読書会後は SNS で積極的にフォローするべきだということです。話した人、同じグループだった人、運営係、には「機会的に」フォロー。単にフォローボタンを押すだけです。せっかく参加したんだし、何も考えずにフォローすればいいのです。今回のように配布資料のプロフィール欄に Twitter アカウントが書かれていると、簡単にフォローできてよかったです。

当日スケジュールに関しては、板書ではなく配布してほしかったです。何度もホワイトボードを見て確認しなくてはいけないし、小さい字で読みにくかったです。

もう少し運営に関して不満があります。名札が首からぶら下げるタイプだったのですが、よほど背が高い人でないかぎり、名前の部分は机の下に隠れて意味がありません。私は持参したペットボトルの前に立て掛けたりして見やすいようにしていました。名札はネームプレートを机の上に置くタイプがいいです。

なお、猫町倶楽部に参加していた頃と違い、私は本名で名乗りました。ニックネームで名乗ることがバカバカしく思えてきたからです。

名前に関しては、配布資料や開催案内のウェブページでは、ゲストの名前にふりがなをふってほしかったです。私は日暮さんを「ひぐらし」ではなく「ひぐれ」を呼んでしまい、あとで間違いに気付きました。ちょっとでも難しかったり、読み間違えの可能性があればふりがなをふるべきです。

参加者は 40 〜50 代がメインでした(運営係もそうです)。文学好きっぽい人たちの集まりという感じです。そして、シャーロッキアン(ホームズのファン)はほぼいない感じです。なので今回<普通の人たち>の感想を聞いて、自分が開いていた読書会がいかに「シャーロッキアン的な話」ばかりしていたかに気付いたりもしました。私の読書会では結構深入りして話していました。ただ、ちゃんと非シャーロッキアンにも分かりやすく解説していたつもりです。

シャーロッキアン的に面白い話は少なかったものの、いくらか発見もありました。例えば、注釈を読む順番。普通は注釈がある本は注を読みながら本文を読むのが普通かと思っていましたが、注を読みながらだと流れが途切れるので最後にまとめて読む人もいるようです。中には注だけを最初に読む(!)人もいたのが面白かったです。

光文社新書 p244 にホームズが「地団駄を踏」んだと書いてあります。その表現が面白いと言っている方がいらっしゃいました。単なる日本語表現の面白さかと思いきや、その場で iPad で原書をチェックすると、“He stamped his feet upon the ground.” と書かれています。なんと原文でもホームズが地面をバンバンと足で叩いている(stamped his feet)のです。英語を直訳すれば、ちょうど日本語の「地団駄を踏む」になるのが面白いですね。

参加者同士ではミステリー一般の議論が中心でしたが、日暮さんはシャーロッキアン的な話をたくさんしてくれて私は結構楽しめました。先生はアメリカのシャーロッキアン団体「BSI」に加入しておられて、その内情についてのお話はワクワクしました。普通はこういうのは、「他人事」「単なる憧れ」として聞く人が多いはずですが、私は「自分も BSI に参加できるようになるぞ」と思ってしまいます。

また、原書でホームズ・パロディーを読める人がいないので、後継者を探していると言っておられました。これは結構重要なことだと思いました。これだけ英語があふれている現在でも、日本ではいまだに英語を職業として使える人が不足しているということです。逆に言えば英語ができることは大きなアドバンテージになれるわけです。私は英語が多少分かるので、頑張ってさらに英語ができるようになれば、こういう方面で日本のホームズの世界に貢献できるのではと想像しました。ちょうど、そろそろ語学に本腰を入れようかなと思っていたところです。今年あたりにやろうかしら。

日暮さんは静かに語られる方で、私は信用できそうな印象を受けました。私は基本的に話術が巧みな人(「バスカヴィル家の犬」のジャック・ステープルトンのように)を信用していないので、物静かで、聞くに値する言葉を話す人が好きです。

読書会で著者(翻訳者)をゲストに呼ぶ際は、課題本は図書館の本ではなくちゃんと購入するほうがいいなと思いました。私も本を書く著者なので、「買いました」と言ってくれると嬉しいからです。

それと日暮さんにサインをしてもらえるチャンスがあったので私もお願いしました。私が大量に付箋を貼っていたので先生に「たくさん付箋を貼ってますね」と言われました。おそらく一生懸命読んでいるように見えるので(実際に一生懸命読みましたし)、付箋をたくさん貼るようなことは著者にとって嬉しいことなんだなと発見しました。

サインは現在0歳の息子あてにしてもらいました。最近はサイン会に行くとそうしてます。将来息子に教えてあげるのが楽しみです。

日暮さんには「バスカヴィル家の犬」の「2階か3階か」問題について聞いてもよかったかもしれません。

[英語] the second floor は何階か – Sherlock Holmes Topia
sh-topia.com/2020/02/11/the-second-floor/

以上のように、「全然運営がなってない」と不満をいくつも挙げました。問題点をまとめると以下です。

・受付の配置、誘導を考えるべき。
・1グループ8人以下にすべき。
・進行係が話を振るよう運営側でルール化すべき。
・スケジュールは資料に書くべき。
・名札はネームプレートで。
・資料のゲスト名にふりがなを。

組織が長く続いて何とかまわっていたり、組織が大きくなると、「より良くしよう」という気持ちがなくなってくるものです。だからこそそれをいかに乗り越え改善するかを考えるのが読書会運営の肝なんじゃないかなと思います。

逆に言えば、いかに自分の読書会がしっかりとシステム設計をしていたかを再確認しました。

主に読書会論の立場でいろいろと批判的に書きましたが、あとで振り返ってみると、「それなりに面白かったかも」と思えました。日暮さんの面白い話を聞けましたし、1ヶ月間「バスカヴィル家の犬」やホームズについて集中して取り組めたからです。

読書会までに読むつもりだったその他の書籍や、観るつもりだったその他の映画も今から読んだり観たりしようかなと思います。

(次のエントリーで「バスカヴィル家の犬」の具体的な内容について書きます。)

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